チームへの投資は、いつ「利益」に変わるのか?
- 曽根原 士郎
- 4 日前
- 読了時間: 4分
潜伏するROIと、変化の閾値
1. 経営者の直球:で、いつ儲かるの?
「儲かるか、儲からないか」
これは「実務実行(パフォーマンス)」の世界の話です。
売上、利益、KPI。経営者がここを最優先するのは当然です。
しかし、なぜ多くの組織で「実務を回すスピード」を上げようとスキル研修やツール導入を繰り返しても、持続的な成長に繋がらないのでしょうか。
それは、私たちが直面している課題の性質を見誤っているからです。
2. 「技術的問題」と「適応課題」の混同
ここで、ハーバード大学のロナルド・ハイフェッツが提唱した重要な視点をご紹介します。
技術的問題(Technical Problems):
既存の知識やスキルの習得、リソースの追加で解決できる問題。
(例:新しいツールの導入、専門スキルの研修、人員増強)
適応課題(Adaptive Challenges):
人々の価値観、信念、関係性、あるいは「OS(組織文化・習慣)」そのものを書き換えないと解決できない問題。
多くの現場で起きている「実務の停滞」は、実はスキルの欠如(技術的問題)ではなく、チームというシステムの機能不全(適応課題)に起因しています。
「心理的安全性を高めて本音を引き出す」といった課題は、マニュアル一冊で解決できる「技術」ではなく、チーム全員がリスクを取って関係性を再構築する「適応」のプロセスそのものです。
「適応課題」は、現場の当事者が自ら変化を受け入れ、OSを書き換える痛み(コスト)を伴います。だからこそ、解決には「時間」という変数が不可欠なのです。
そして、それが「実務実行」と切っても切り離せない、「組織成長」というグループダイナミクスを丁寧に考え扱っていく、組織開発(OD)の核心だと思っています。
3. チームTTM ── 「空白の時間」に起きていること
組織開発に投資してから、利益として跳ね返ってくるまでの間には必ず「潜伏期間」があります。この期間、チームの中では何が起きているのでしょうか。
ここで、個人の行動変容理論であるトランスセオレティカルモデル(TTM:変化のステージモデル)を、チームというシステムに援用してみましょう。
ステージ | チームの状態 | ROIのリアリティ |
無関心期 | 「今のままでいい」という現状維持バイアス。 | 投資期: 負の資産(歪んだOS)の解体。 |
関心期 | 「このままでは勝てない」という違和感の共有。 | 予兆: 課題の表面化。リスクの早期発見。 |
準備期 | 共通言語(18要素)を使い、OSの書き換えに着手。 | 仕込み: 関係性の質が向上。摩擦係数の低下。 |
実行期 | 自律的な「ドラマ(実務実行)」が回り出す。 | 回収開始: 創造性とスピードの劇的向上。 |
経営者から見れば、「準備期」までは利益が1円も出ていないように見えるかもしれません。
しかし、システム論的に見れば、この期間は「実行期に爆発的なROIを生むための、OSのデフラグと再構築」が行われている、極めて重要なフェーズなのです。
特にチームにおいては、個人の変化の合算ではなく、メンバー間の「関係性の質」や「目的への深い合意」が整った瞬間に、ステージが一気に進みます。
4. 変化の「閾値(しきいち)」はどこにあるのか
では、その「爆発の瞬間」をどう予測すればよいのか。
「いつ、変化が成果として現れるのか?」という経営者にとって最も関心の高い「閾値」については、現在、コクヨ株式会社様の『TEAMUS』チームによって、膨大なデータを基にした調査・研究が着手されています。
近い時期に、同社公式コラム等で「どのような状態が整えば、チームは非連続な成長(実行期)へ移行するのか」という統計的な知見が提示される予定です。
私は、その理論的背景と手法を整え、お客様の現場で実践し、データとファクトを集めながら、「チームが今、ROIのどの階段にいるのか」が可視化できる、経営者の「待ち続ける不安」を「確信を持った投資」へ変えていけるお手伝いをしています。
5.組織成長は「資本効率」の極致
VUCAと呼ばれる正解のない時代において、「技術的問題」への対処だけで実務を回し続けるのは、燃費の悪いエンジンを回し続けるようなものです。
チームというシステムに投資し、「適応課題」を解決できる土壌を創る。
それは福利厚生や社員へのプレゼントではなく、実務実行の「歩留まり」を改善し、持続的な利益を生むための「組織成長フレームワーク」の実装であり、戦略的投資(アービトラージ)に他なりません。
経営者の役割は、目先の数字に一喜一憂することではなく、チームが今どの「ステージ」にいるかを見極め、最高のドラマを演じるための「舞台(インフラ)」を整え続けることにある。そう、考えています。