「心地よいチーム」に未来はない
- 曽根原 士郎
- 1月29日
- 読了時間: 4分
更新日:7 日前
心理的安全性の誤用を越え、ドラマを共創する作法
1. 「見えない重力」に飲み込まれる個人
「優秀な人間を集めたはずなのに、なぜかチームが停滞している」
「リモートワークになってから、会議で誰かが発言するのを待つ『沈黙の時間』が増えた」
こうした悩みに対し、多くの組織が「個人のやる気」や「マインドセット」に解決を求めがちです。しかし、社会心理学の父 クルト・レヴィンは、人の行動を次のような冷徹な数式で定義しました。
B = f(P, E)
B(Behavior): 行動
P(Personality): 人格・能力・価値観
E(Environment): 環境・場
個人の行動は、その人の資質(P)だけでなく、取り巻く「場(E)」との関数であるという真実です。
かつてオフィスに漂っていた空気は、ハイブリッドワーク下の現在、デジタル上の行間に潜む「新しい見えない重力」へと変質しました。この"見えない不安による過度な忖度や様子見"が個人の主体性を削り、「言われたことだけ、ちゃんとやる」という「自己制限の壁(リミッティングビリーフ)」や、心を閉ざす静かな退職を加速させているように見えます。
2. その「安全性」は、ただのぬるま湯ではないか
この停滞を打破しようと、今や「心理的安全性」という言葉が魔法の杖のように使われています。しかし、そこに決定的な誤用があると感じます。
「何でも言える」「傷つかない」ことを目指すあまり、単なるコンフォートゾーン(ぬるま湯)が生まれていないか。具体の変革行動を伴わない「浅い自己主張」は、チームの中で本来生まれるべきドラマを停滞させるだけです。
私たちが目指すべきは、居心地の良さではなく、目的に照らして自分の解釈を書き換える力 ── 「心理的柔軟性(Psychological Flexibility)」です。
リーダーの最初の仕事は、社員を「お客様扱い」して機嫌を取ることではありません。まずは「なぜ我々はこのストレッチゾーンに集うのか」という関係性の土壌を耕し、摩擦を恐れず目的へ向かうための「決意と期待」を共有することです。
3. 経営は「舞台のアーキテクト」であれ
では、どうすれば現場は「見えない重力」を振り払い、自律的に動き出せるのか。
経営者の役割は、一人ひとりの役者に演技指導をする「マイクロマネジメント」を卒業し、優れた「舞台(プラットフォーム)のアーキテクト」に転換することにあります。
「脱出速度」を設計する:
自社文化という単一の重力に縛られたチームは、必ず「集団浅慮(グループシンク)」に陥ります。社外交流や越境体験という「舞台装置」を使い、外部の視点を取り入れることで、チームの凝り固まった規範を相対化させる。これは福利厚生ではなく、組織の自律性を保つための「インフラ」です。
「構築権限」を現場に渡す:
経営が設計すべきは、個別のチームの正解ではありません。現場が自ら答えを更新し続けられるよう、共通言語としての「ライブラリ(18の要素)」と、運用のための「プロトコル(作法)」という標準規格を定義し、提供すること。
これが、現場に「自分たちのドラマを書き上げる自由」を与えることになります。
4. チームキャリアクラフト ── 資産としての成長軌跡
この舞台の上で、現場が自律的にシステムを使い倒していくプロセスを、私は「チームキャリアクラフト」と呼びます。
これは、単なる「仲良しチーム作り」ではありません。
現場が自ら「OS」を書き換え、3つのステイタスを駆け上がっていく。 その試行錯誤のプロセスを通じて、二つの資産が蓄積されます。
個人のキャリア
これが、現場に「自分たちのドラマを書き上げる自由」を与えることになります。
チームのキャリア:
困難を乗り越え、独自の結合力を高めてきた「成長の軌跡、チーム内で引き継がれていく"らしさ・文化"」。
この「チームのキャリア」こそが、個人が去れば消えてしまう断片的なスキルとは異なる、あなたの会社だけの「代替不可能な無形資産」となるのです。
5. ドラマを信じ、コントロールを手放す
経営者の皆さま。
経営の真の役割は、期待感を持てる「舞台(インフラ)」を演出し、そこに現場を招き入れ、最高のドラマを演じろと背中を押すことです。
現場が自ら「OS」を書き換え、自分たちらしく成果を出し、その軌跡を資産(キャリア)として刻んでいく。その躍動感こそが、2026年の組織に求められる真の姿です。
さて、あなたの組織にあるのは、単なる「人の集まり」ですか?
それとも、自ら価値をクラフトし、進化し続ける「生きたシステム」ですか。