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「わかりやすさ」という名の優しい罠

  • 1月18日
  • 読了時間: 5分

更新日:2月4日

私たちの成長は、簡単に止まってしまう…


1. 1日に35,000回、私たちは「選んで」います

今日、皆さんは、いくつの決断をしましたか? ケンブリッジ大学の研究(※1)によると、ヒトは1日に最大で35,000回も判断しているそうです。

ランチのメニュー選びから、会議での何気ない発言まで、私たちは常に「AかBか」という選択肢を毎日延べ70,000件見て仕訳けている、これほど膨大な処理を無意識に何気なく行っている脳は、本当にすごい! と思ってはいますが、実は想像以上に「合理的」に働いています。

2. 20ワットの灯りが照らす「実態」

私たちの脳は、重さ約1.5kg、消費電力はわずか20Wほどだと言われています。 家庭用の小さな薄暗い電球ひとつ分ほどのエネルギーで、860億個ものニューロンが絡み合った天文学的なネットワークを動かしているという、とんでもない仕組みです。(※2)

でも、この極小エネルギーで働き続けるために、脳は一つの「ワザ」を持っています。


それが、パターンや直感で素早く処理する「システム1(速い思考)」への依存であり、エネルギー消費の激しい「システム2(高負荷な熟考)」をできるだけ使わない、自動的な回避スキーマです。心理学の世界では、これを「認知のけちん坊(Cognitive Miser)」と呼びます。


「パッと見てわかるもの」を好むのは、私たちの怠慢ではなく、脳のデフォルト機能の「システム1」であり、同時にこの「効率の良い心地よさ」への執着こそが、私たちの成長を阻む「バイアス」の正体です。(※3)


3. 効率の追求が、「考えること」まで削減しはじめ

前回もちょっと触れた最近の「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する風潮は、この脳の都合をさらに加速させているように感じます。


「短い時間で、わかりやすく」情報を得ることはめちゃくちゃ効率的で生産性が爆上がりしますし、「難しいことを、誰にでもわかるように短く説明できる」方は本当に素晴らしく、心からの尊敬と敬意、感謝しかありません。 その一方で、「わからないもの、面倒なものと向き合う根気」が少しずつ減り、「本当に知りたいこと以外は、考えるどころか調べることすら手間」になって、すぐにAIに聞いてしまう。もちろん私も、日々、実感しています。。


効率を優先し、できるだけ楽なプロセスを選択し続けてしまう。

それは、システム1の心地よい檻の中に留まり、実はその外側に広がる「まだ見ぬ可能性」「意外な、新しい発見」という機会を、自ら手放してしまっていないか。


「浅い、知ったかぶり」のまま、さも「わかったようなつもり」になっていないか。

いったい何を「本当に考えるべきか」。


システム1で非効率さを削減しつつも、システム2を起動するべき「問い」の精査がとても重要な時代になった、とも言えるでしょう。


4. チームの中に潜む「エコーチェンバー」と思考の停止

この現象は、個人の問題に留まらず、組織という「チームシステム」においても顕著に現れます。

なかなか「変わること」ができないチーム

日々繰り返される業務に対して、新たな視点で見直そうとすると、途端にチームの動きが止まってしまう。


見慣れない言葉や図表が出た瞬間に「難しいから」とシャットアウトしてしまう。


これは、チーム全体が「慣れ親しんだ正解(システム1)」の中に閉じこもり、異物を排除しようとする一種の「エコーチェンバー(共鳴室)」現象が起きている状態です。


自分たちの知っている心地よい情報だけを増幅させ、未知の負荷から逃れようとする引力が働いています。


リーダーとメンバーの間に横たわる「認識の溝」

また、双方が「自分の見えている世界が正しい」と信じ込み、相手が知らない情報を口にすると「よくわからない・価値を感じない」と否定的な反応を見せるチームもあります。


相互理解の「負荷・わかりづらさ」が避けられ、双方が思考停止に陥り、対話が平行線のまま終わってしまうことで、本来生まれるはずだった「協創」の火が消えていきます。


「難しいことを避けると、知らない間に世界が狭くなっていく」


そんな寂しい感覚を、度々、現場で味わってきました。


5. 組織開発とは「チームのシステム2」を動かすこと

私が取り組んでいる組織開発(OD)やチームビルディングの本質は、実はここにあります。


単に業務プロセスやツールを変えるだけであれば、それは「システム1」の延長線上の修正に過ぎません。


しかし、チームが直面している「適応課題(※4)」、すなわち無意識の前提や文化を書き換えるためには、チーム全体で「システム2(高負荷な熟考)」を起動させる必要があります。


自分たちの「当たり前」を疑い、新しい・難しい問いを立て、共有し、共に悶絶する。


このプロセスは非常に抽象度が高く、エネルギーを要すると同時に、効果が目に見えるまでに時間がかかります。しかし、この「高負荷な熟考」を乗り越えた先にしか、チームの真の成長はない、と思っています。


もし、皆さんのチームが今、何かに対して「難しい」と立ち止まっているとしたら。


それは、チームが成長に向け「過去の心地よいルーチン」を超えて、新しい価値を生むための「仕事」が始まった、「次の世界・景色が見え始める」素晴らしいサインです。


その難しさを排除するのではなく、チーム全員で面白がれる。そんな強さを、皆さんと一緒に育んでいけたらと願っています。


参照情報

 
 

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